- 「成長株の見極め方を知りたい」
- 「成長株投資で失敗しないための心得を知りたい」
割安株(バリュー株)投資の神様とも呼ばれるウォーレン・バフェットは「私の85%はグレアムからできていて、残り15%はフィッシャーからできている」と語ったといわれており、フィッシャーの投資手法から多大な影響を受けているといわれます。
フィッシャーの考え方は成長株投資家だけでなく、割安株投資家にも有益です。
本記事では『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る』を読んで、私が気づいたことについて紹介します。
『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る』の著者・訳者情報
最初に、『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る 』の著者、訳者を紹介します。
著者:フィリップ・A・フィッシャー
1928年から証券分析の仕事を始め、1931年にコンサルティングを主とした、自身の会社「フィッシャー・アンド・カンパニー」を創業しています。現在の業績に対する割安さよりも、将来の業績に対する割安さを重視するという成長株投資を実践し、モトローラやテキサス・インスツルメンツ、コーニング、ダウ・ケミカルなどを長期保有して、膨大な利益をもたらしたことで有名です。
本書以外にも『株式投資で普通でない利益を得る』などの名著を残しています。
また、彼の息子であるケネス・L・フィッシャーも独立系資産運用会社フィッシャー・インベストメンツ社を創業しています。ベストセラー『ケン・フィッシャーのPSR株分析』『チャートで見る株式市場200年の歴史』などの著者として知られています。
監修者:長尾慎太郎
東京大学工学部、北陸先端科学技術大学院大学・修士卒。日米の銀行、投資顧問会社、ヘッジファンド、大手運用会社などに勤務。
彼が監修した書籍として、『完全なる投資家の頭の中』『インデックス投資は勝者のゲーム』なども有名です。
訳者:丸山清志
一橋大学法学部、カリフォルニア州立大学スタニスラス校政治学科卒。米国現地生命保険会社に勤務後、日本の語学・留学関連会社を経て、翻訳家として独立。CFPの認定を受けてファイナンシャルプランナーとして個人事務所を設立したのち、個人・法人向けFP相談業務、講演活動、翻訳・通訳業務を幅広く行っています。
彼が翻訳した書籍として、『ケン・フィッシャーのPSR株分析』なども有名です。
『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る』の概要
フィリップ・A・フィッシャーは全部で4冊の本を執筆しています。本書は前半に4冊目『投資哲学を作り上げる』と、後半に3冊目『保守的な投資家ほどよく眠る』の2冊を収録しています。
大まかに述べると、前半は成長株投資におけるフィッシャーの投資哲学(行動指針)を表したものです。後半は将来性ある会社の評価指標(投資すべき成長株の特徴)について述べています。
その結論は前半部の最後にまとめられています。それぞれについて、以下で簡単に解説します。
成長株投資におけるフィッシャーの投資哲学
フィッシャーの投資哲学を簡単にまとめると、以下の8つです。
- 長期的に利益が劇的に拡大するための計画を持っていて、他企業が参入するのが困難な内在的な質を持つ企業に投資すること
- 人気のない時期に買うこと
- その株式を、その会社の特質が根本的に失われたとき、または十分に成長したために市場全体よりも速く成長しなくなったときまでずっと持ち続けること。短期的な変化は予測が困難なので、短期的な理由で魅力的な株式を決して売ってはならない
- 配当には重点を置かないようにすること
- 間違いを犯すことは避けられないが、大事なのは間違いをできるだけ早く見つけ、その原因を理解し、繰り返さないようにすること
- 本当に素晴らしい会社の数は比較的少なく、個人投資家の保有銘柄は10~12銘柄くらいがちょうどよい
- 金融界で支配的な意見を何でもむやみに受け入れてはいけないが、頭から拒否してもいけない。自らの知性を磨いて良い判断を下さないといけない
- 投資で成功するには、一生懸命に働くこと、知性、素直さの組み合わせが大事である
フィッシャーは成長株投資家と呼ばれていますが、上記を見ると一般的な成長株投資の手法と異なる点があります。
例えば、一般的には成長株投資では株価が上昇しているときに順張りで投資するのが良いといわれます。成長株は株価が割高になっていることが多いですが、あまり気にされません。
一方、フィッシャーは人気がなくて株価が低迷しているときに買うと言っています。これは割安株(バリュー株)投資の手法に近いです。
つまり、フィッシャーは高い成長力を秘めた割安株(バリュー株)への長期投資を得意としていたと考えられます。フィッシャー流成長株投資法は、「高成長バリュー株投資法」と言ってもよいかもしれません。
将来性ある会社の評価指標
フィッシャーの「将来性ある会社の評価指標」を簡単にまとめると、以下です。
- 製品やサービスを最も低いコストで作り出せて、将来もそうあり続けるであろうこと
- 顧客のニーズや興味の変化を把握し、その変化に対して適切な手法で対処できること
- 顧客が何を欲しているかだけでなく、顧客にわかりやすい言葉で説明できるマーケティング力を持つこと
- 技術志向の企業以外でもしっかりと磨かれた研究能力があること
- 研究の生産性が高いこと(マーケット対利益の意識、必要な人材を確保する力)
- 強い財務チームを持っていること
- 収益の脅威となりうる影響を早い段階で突き止める早期警告システムがあり、マイナスのサプライズを最小限にするための対策を考え出せること
- 原動力と独自のアイデア、会社の財産を築き上げるために必要なスキルを持ち合わせ、決然とした起業家的な性格のリーダーが存在すること
- 最高経営責任者の周りに有能なチームがいて、重要な権限を彼らに委譲されていること。権力闘争と無縁なチームワークが必要である
- 現場レベルの有能な管理職を引き付け、彼らがより大きな責任を持てるように訓練していること。後継者は社内にいる人材から選ばれるべきであり、最高経営責任者を外部から採用しなければいけないことは危険なサインである
- 起業家精神が組織に浸透していること
- 企業に独自の個性が備わっていること
- 世界はこれまでにないほどの速さで変化していることを経営陣が認識していること
- ブルーカラーの労働者も含むすべての従業員が、この職場は本当に良いと信じられるような努力が、純粋、現実的、意識的、継続的に行われていること
- 経営陣が健全な成長のために必要な規律に従うことに積極的でなければならない。成長するためには、現在の利益をある程度犠牲にすることも必要である
- 過去に投資した資本に対する利益の大きさを比較するよりも、売上高営業利益率を比較するほうがよい
- 大きな利幅は競争を呼び、利益を出す機会は食いつぶされてしまう。営業を効率的にして参入を考えている者の意欲を削ぐことが最善である
- 業界のリーダー的地位にあること
- 新製品の市場に一番乗りしていること
- 異なった種類の製品によって、投資先の会社の製品の魅力が損なわれることがあるので注意すること
- 既存の競合他社がすでに強い地位を確立している場合は、新しい優位な製品を導入することは困難である。革新者側が成功するには既存の競争相手と比べて新規性のある手法を用いて他の技術分野を統合していくとチャンスが高まる
- 技術は業界のリーダーとなるための一つの手段にすぎない。サービスで優位に立つことも一つの手段である
フィッシャーの評価項目は全部で22項目もあります。しかも、その内容をみると、投資の評価項目というより、経営の評価項目といったほうがいいくらいの高度な内容です。
さらに、上記の評価項目は数値的に判断しにくいものが多いです。フィッシャーも「会社の財務データの印刷物を読むだけでは投資を裏付ける十分な材料とは決してなり得ない」と述べており、「会社の問題について直接事情を知っている人から情報を得る」ことが大事だと言っています。
情報収集が難しくて定性的な評価項目だからこそ、その判断自体にフィッシャーの経験知が込められていると感じます。
背景や具体的なデータを知ると、どれも納得がいくものばかりです。
本気で成長株投資をしたいという方は、『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る 』を読んでみることをおすすめします。
『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る』を読んで学んだこと
私が『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る 』を読んで学んだことは以下の2つです。
- 短期的な相場予測に基づいて、魅力的な銘柄を手放してはならないこと
- フィッシャー流成長株投資の魅力と難しさ
それぞれについて、以下で詳しく解説します。
短期的な相場予測に基づいて、魅力的な銘柄を手放してはならないこと
株式投資をしている多くの方は、景気減速が懸念されているときには保有株を売りたくなる衝動に駆られると思います。私もこれから株価が下がりそうなのであれば、今売って、後で買い直せばいいと考えがちです。
しかし、フィッシャーは次のように言っています。
いかに一生懸命スキルを磨いたとしても、短期的な株価の動きを60%以上の確率で正しく予想することは困難なのだと思う。この確率は恐らく甘すぎるのだろう。90%の確率で正しい環境にいるときに、正しい確率が60%しかない要因のためにポジションを解消してしまうことは理解し難い。
つまり、短期的な株価を高い確率で予測できる人はいない。企業分析の結果、有望な銘柄であることを確信しているなら、当たるかわからない短期的な景気予測に基づいて売却してはいけないということです。
上記の言葉からわかるのは、フィッシャーが見ているのは株価ではなくて、内在的な企業価値だということです。だから、短期的には株価が下落しそうだと予想していても、本来の企業価値が高い銘柄ならば売る必要はないと言っていると考えられます。
短期的な株価変動を見て、私が失敗してしまった出来事
フィッシャーの言葉を読んで私が思いだしたのは、以前、損切りラインを設定していたころに、有望だと考えていた割安株を一時的なショック安を理由に売却してしまったことです。
その時は「これからさらに事態が悪化するのではないか」という恐怖に駆られたのもあって泣く泣く損切りしました。しかし、売った後で徐々に市場が落ち着き、株価は回復していきました。その後、再度買い直しましたが、結局無駄な出費をしてしまったと後悔しています。
「高い企業価値を持っていると確信できる銘柄ならば、自分の不確かな相場予測で売るべきではない」というフィッシャーの言葉は自分の投資判断を信じて投資し続けることの大事さを教えてくれます。
フィッシャー流成長株投資の魅力と難しさ
もう一つ学んだことは、フィッシャー流成長株投資(ここでは高成長バリュー株投資と呼ぶ)は大きな魅力があると感じる一方、その実践は卓越した情報収集力と分析のセンス、経験が必要ということです。
フィッシャー流成長株投資の特徴がわかりやすいように、一般的な割安株(バリュー株)投資の特徴と比較すると、下表のようになります。
割安株投資 (バリュー株投資) | フィッシャー流成長株投資 (高成長バリュー株投資) | |
---|---|---|
投資基準 | 主に現在の業績、財務に対して割安な銘柄に投資する | 主に将来の業績・財務に対して割安な銘柄に投資する |
メリット | ・もともと割安なので下値が限定的(比較的安心) ・現在わかっている数値をもとに判断するので、失敗する可能性が比較的小さい | ・想定通りに成長すれば、株価は何十倍にもなることがある |
デメリット | ・成長率が比較的小さい銘柄が多いので、長期的に大きな利益は望みにくい | ・将来の業績は不確実で判断が難しいので、想定通りにいかない可能性が比較的大きい |
企業価値を基に投資判断するという点は同じですが、その時間軸が異なります。一般的な割安株投資では主に現在(と近い将来)の業績・財務に対して割安かを判断するのに対して、フィッシャーは主に将来の業績・財務で判断します。
現在のことは財務データなどのある程度確定した情報から把握しやすいのに対して、将来のことは事業環境の変化や競合動向、政治的な変化などがあるため、予測しにくいです。
フィッシャー流成長株投資法で大きな利益が得られるのは、将来の成長を見極めるのが困難だというリスクプレミアム(リスクの大きさを反映した対価、リターン)による部分がありそうです。
フィッシャーの投資法を実践するなら、それなりのセンスと努力が必要
どの投資手法もメリット・デメリットがありますので、どれがよいとは言えません。
しかし、フィッシャーが高成長バリュー株投資で成功できたのは、22項目もの評価指標を設けて、予測しにくい将来を少しでも正確に推測できるように努力したからだと考えられます。
もしフィッシャーの投資法を実践したいなら、それなりのセンスと努力が必要です。
一方、将来を予測する自信がない場合は、比較的分析しやすい割安株投資などの手法が適しているだろうと考えます。
まとめ
本記事では『投資哲学を作り上げる/保守的な投資家ほどよく眠る 』を読んで、私が気づいたことについて紹介しました。
本書にはフィリップ・A・フィッシャーが長年の実践と経験から構築した投資哲学と成長株選びの英知が満載されています。成長株投資家はもちろん、割安株投資家にとっても役に立つ内容が詰まっています。株式投資家ならぜひ読んでおきたい一冊です。
一方、投資手法は人によって様々です。もし本書の一部分だけ切り取って自身の投資に適用するとむしろ失敗してしまうこともあるかもしれません。自分の投資法に適している部分を見極めながら自身の投資に取り入れていくことをおすすめします。