- 「みんかぶなどで割安と書いてあるのを信じて投資したけど、逆に値下がりしてしまった。みんかぶの理論株価とか、目標株価はあてにならないのだろうか?」
- 「理論株価といっても、見るものによってばらばらなので、どれを信じていいかわからない」
同じような経験をして、「理論株価なんて、あてにならない」と思っている方も多くいるのではないでしょうか?
しかし、私の経験からいうと、短期的な株価については、理論株価通りにはいかないけれども、長期的には理論株価は有効であると思います。
本記事では、「なぜ理論株価があてにならないと思われるのか?」、および「理論株価の使い方」について、私の考えを紹介します。
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なぜ理論株価(目標株価、適正株価)はあてにならないと思われるのか?
理論株価(目標株価、適正株価とも呼ばれる)は、各種の雑誌やWebサイトで公開されています。代表的なものだけでも、以下のものがあります。
雑誌:
- ダイヤモンド・ザイ(ZAi)
- 日経マネー
- 東洋経済(四季報プロ500)
Webサイト:
- みんかぶ
- 理論株価Web
- GMOクリック証券(口座保有者のみ閲覧可)
これらの理論株価にはどのような違いがあるのでしょうか?
複数の理論株価を比較してみると、驚くほどばらばら
ダイヤモンド・ザイ(ZAi)と東洋経済、みんかぶ、理論株価Web、GMOクリック証券の理論株価を比較してみました。
(結果を詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
参考記事:理論株価って、あてになるの?5種の理論株価を比較してみた!)
思っていた通りですが、同じ銘柄でもびっくりするほど、差がありますね。
同じ銘柄なのに、90%割安というものもあれば、91%割高というものもあったくらいです。。。
この結果だけ見ると、「理論株価なんてあてにならない!」、と思われるのも仕方ありませんね。
理論株価を使うときは異常値に注意しないといけない
さらにもう一つ、気を付けなければいけないポイントがあります。それは異常値の問題です。
理論株価の計算手法はいろいろありますが、現在の保有資産や、将来稼ぐ利益を合計する手法の場合で説明します。
この場合、特に問題になるのが、将来の利益予想です。どうやって将来の利益を予想しているかというと、直近の業績や成長率などを用いることが多いです。
もし、突然のヒット作の登場や、M&Aや特別益(不動産・株式売却益など)の計上などで一時的に売上・利益が急増したとすると、どうなるでしょうか?
この急増が今後数年続くと仮定して計算されている場合があり、理論株価が異常に高い値になることがあります。
異常値の例
例えば、ダイヤモンド・ザイ(2018年8月号)において、理論株価に対する割安度が1位になっている、情報・通信業A社をみてみましょう。
A社の株価は、理論株価より89%割安となっています。これが本当だったら、超お宝株ですね。
なぜこれほどの乖離が生まれたのでしょうか。
その原因は、ダイヤモンド・ザイの理論株価の計算式にあります。ダイヤモンド・ザイが公表している計算式によると、将来の利益は、今期予想利益に売上高成長率(前期と今期予想)を乗じて予想します。
そして理論株価は、6年目までの収益(=利益価値と成長価値)、および資産価値を足し算して計算します。
ダイヤモンド・ザイ:
理論株価=成長価値+利益価値+資産価値
資産価値:1株あたりの株主資本
利益価値:今期の予想1株益×年数
成長価値:売上高成長率から算出した、各年の1株益成長分の合計
A社の前期と今期予想の業績をみると、以下のようになっています(2018年の予想は、会社予想です)。
売上は45%、1株益は27%アップの予想です。もし、この成長が続くならば、6年目の利益は今期予想の6.4倍となります。ものすごい伸び率ですね!
一方、A社の長期的な業績をみてみましょう(2019年の予想は、四季報予想を用いています)。
2016年以前のA社は、赤字が続いていたことがわかります。
一方、A社の業績が2017年に急上昇したのは、スマホゲームでヒット作が出たからです。さらに、同時期にゲーム関連の会社を含む7社を買収しています。
この結果、2017年以降に大幅に売り上げが増えています。
しかし、ゲーム事業は好不調の波が激しいことで有名ですし(任天堂がいい例です。)、買収による拡大はずっと続くわけではありません。
このため、2018~2019年の伸び率は、売上は9%、1株益は13%にとどまると予想されています。もし、スマホゲームの人気が終わってしまったら、下振れする可能性すらあります。
よって、6年目の利益が今期予想の6.4倍になる可能性は、ゼロとは言えませんが、限りなく低いと考えられます。したがって、89%割安というのは、理論株価が大きくなりすぎているだけで、実際にはそこまで値上がりすることはないだろうと予想されます。
だから、A社の株価は相対的に安いままなのです。
A社の例のように、業績の中身まで調べないと、将来の業績はわかりません。理論株価の値だけみて、投資先を判断すると、このような異常値に惑わされる恐れがあります。
今回の例では、ダイヤモンド・ザイの計算式を取り上げましたが、ザイの計算式はだめだというわけではありません。どの計算方法を用いるにしても、数値だけから判断していると、異常値が入る可能性があります。
最終的には個別に人間が判断しないといけませんね。
なぜ理論株価は複数の計算方法があるのか?
各種のWebや雑誌で、理論株価が大きくばらついてしまう理由はなぜでしょうか?
そもそも株価が決まる要因は2つあります。2つの要因の大きさを見積もった結果、理論株価が算出されます。
- 企業としての本来価値
- 需要と供給
理論株価のばらつきは、2要因の見積もり方の違いにあります。
では、見積もり方が違うのはなぜでしょうか?
企業の本来価値を少ない情報から推測しないといけないから
株式は、企業のオーナーとしての権利ですから、株価は本来、企業の価値を表すはずです。
(企業価値は、過去に企業が蓄えてきた資産価値と、これから稼ぐであろう収益価値の合計)
では、企業価値を計算するには、どうすればよいでしょうか?
もし、会社の資産と将来稼ぐ利益がすべて時価で評価できていて、すべての投資家にその情報が筒抜けであった場合、株式の価値は1つに決まるでしょう。
しかし、実際には、以下の不確実さがあるため、株式の価値を正確に把握することはできません。
- 機密情報は会社の内部にいないとわからないため、投資家が知りえる情報には限界がある。
- 実際に売ってみなければ資産価値はわからない。
- 将来の収益に影響する環境変化を予測するのは限界がある。
よって、企業の価値を算出する際は、投資家の推測が入らざるを得ません。
つまり、理論株価のばらつきの要因の1つ目は、投資家による推測方法の違いにあります。
したがって、他人が算出した理論株価をそのまま信じてはいけません。
どうやって推測しているのかを理解し、信用できる推測方法かを判断してから使わないといけないのです。
株価は需給で決まる側面もある
株式市場は、長期的には企業の本来価値を株価に反映する側面を持ちますが、短期的には「美人投票」の側面も持っています。
「美人投票」というのは、みんなが美人だと思う人に投票すれば賞金がもらえるという、インセンティブがついた投票のことです。
株式投資は他の人がいいと思う企業を選べば、値上がり益を得られるというインセンティブがありますので、「美人投票」と同じ性質を持っているのです。
よって、株価は本来の企業価値だけでなく、人の期待値という需給に左右されています。
人の期待値のように感情的なものを、完全に予測することなどできるでしょうか?
当然、できませんね。
したがって、理論株価のばらつきのもう一つの要因は、人の期待値の予測にあります。
実際、みんかぶや理論株価Webの場合、現在の株価水準を考慮して理論株価を決めていますので、人の期待値を含めた評価をしていると考えられます。
2つの違いは、その評価の仕方にあります。
一方、ダイヤモンド・ザイやGMOクリック証券のやり方は、株価にとらわれず、財務分析のみから理論株価を計算しています。
人の期待値は考慮しない、というのが特徴です。
どれがいい、悪いとは言えませんが、それぞれに差が出ることはお分かりいただけると思います。
理論株価を計算することは無駄ではない理由
以上のように、「投資家の推測」や、「期待値という感情」によって、理論株価はばらついてしまいます。
では、理論株価を計算することは無駄なのでしょうか?
もちろん、そんなことはありません。
人は投資をするとき、何らかの理由をもって、「値上がりするだろう」と考えています。
理論株価は、「値上がりする」というのを数値で表しているだけですから、何らかの根拠を持って投資している人は、みな理論株価を計算しているといってもいいはずです。
よって、理論株価自体を否定する必要はありません。
問題は、どのように用いるかです。
株式投資における理論株価の使い方
では、理論株価を信じて失敗することを避けるには、どうすればよいでしょうか?
ポイントは以下の2つです。
- 理論株価だけではなくて、業績や財務などを自分で確かめる
- 計算方法は自分で信じられるものを選択する
順番に解説します。
理論株価だけではなくて、業績や財務などを自分で確かめる
異常値に惑わされないためには、業績や財務を自分で確かめる必要があります。
特に、以下の3点に注意が必要です。
- 今の利益水準が今後も続くか?
- 今の成長が今後も続くか?
- 保有する資産の質は悪くないか(在庫やのれんなどが多くないか)?
詳しい業績は、企業のIR資料で確認するのが一番です。
とはいえ、注意深く検討するには、結構な時間がかかります。
そこまで時間がとれないという場合であっても、四季報で最近の数年分だけでも確認したほうが良いです。
紙版を使えば、全上場企業を一覧して確認できるので便利です。
もし無料で閲覧したければ、SBI証券やGMOクリック証券などの企業情報を見るとよいです。
紙版に比べて一覧性では劣りますが、無料という良さがありますので、これらで確認するのもよいでしょう。
計算方法は自分で信じられるものを選択する
理論株価の計算方法は、どういう根拠で作られたか、だけでなく、短期の視点か、長期の視点か、などでたくさんのやり方があります。
どのやり方でも成功している人がいるのはなぜかというと、使い方を理解して使っているからですね。
逆に、どのやり方でも使い方が違えば失敗してしまいます。
(例えば、長期の視点で算出した理論株価を、短期の運用に用いた場合、全然値上がりしないのは当然ですね。。。)
よって、「(他人がいっているだけで納得感のない)理論株価はあてにせず」、「自分が納得した理論株価」を用いて、株式投資に臨まないといけません。
私の理論株価の考え方
私の場合、短期的な株価は投資家の感情で振れてしまうため、完全に予測するのは不可能と割り切っています。
しかし、投資の神様といわれるウォーレン・バフェットの師匠で、バリュー投資の父と呼ばれるベンジャミン・グレアムは次のように言っています。
短期的にみると、株式市場は人気投票装置である。しかし、長期的にみれば、価値計測装置である。
つまり、短期的な株価は需給次第なので、予測が難しいです。しかし、長い目でみれば、株価は本来の株式価値(企業価値)に連動するので、本来の株式価値より安い銘柄に投資していれば、いずれは報われるという意味です。
※企業価値を1株あたりに換算したものが理論株価です。つまり、長期的な株価は理論株価で決まります。
私の理論株価の考え方はグレアムやバフェットの考え方に基づいており、ダイヤモンド・ザイやGMOクリック証券の考え方に比較的近いです。
この場合、理論株価の活用方法で重要な点は、2つあります。
理論株価に近づくのが早い銘柄を予測するにはカタリストに注目するとよい
長い目でみた時の株価は本来の株式価値に連動しますが、短期的な株価は需給と供給の関係で決まります。
そのため、人気がない銘柄の場合、割安に放置された状態が何年も続くことも多々あります。
基本的には中長期投資のスタンスで辛抱強く待たないといけないのですが、できれば早く値上がりしてくれるほうがいいですよね?
割安銘柄の株価が修正されるのには、投資家の注目を集めるきっかけ(カタリスト)が必要です。
カタリストが起きそうな割安銘柄を狙う方法について詳しく知りたい方は、こちらの記事をどうぞ。
バリュートラップ銘柄を回避する秘訣!
理論株価の計算は企業価値評価手法がおすすめ
理論株価、つまり本来の株式価値とは何でしょうか?
株式は企業のオーナー権ですので、株主は企業が稼いだ(将来稼ぐであろう)利益、資産を分配される権利があります。よって、本来の株式価値とは、過去から将来にわたって、企業が得る利益・資産の合計であるはずです。
この考え方から、株式価値(理論株価)を計算する手法として、企業価値評価手法(バリュエーション)があります。
この方法は、M&Aなどで買収金額を算出する根拠としても使われる手法です。少々分析に手間はかかりますが、合理的に株式価値を算出できますので、おすすめです。
企業価値評価手法について詳しく知りたい方は、こちらの関連記事もどうぞ↓
理論株価(適正株価)の計算方法と使い方の注意点。おすすめは企業価値評価手法
手軽に理論株価を使うならGMOクリック証券の財務分析ツールがおすすめ
企業価値評価手法は財務諸表を読み解かないといけないので、ある程度の手間がかかります。
もっと手軽に企業価値評価手法による理論株価を知りたいなら、GMOクリック証券が無料で提供している財務分析ツールがおすすめです(口座保有者のみ閲覧可能)。
計算方法が多少異なりますので、私のやり方と全く同じ結果になるわけではないです。しかし、基本的な考え方は同じなので、おおむね似た結果になります。理論株価を簡単に調べられて便利なので、私も参考値として使っています。
無料で手軽に割安度を診断したいという方はGMOクリック証券 の財務分析ツールを活用するとよいです。
スマホでも簡単に申込・取引できます
まとめ
- 理論株価は算出の仕方によって、様々であり、何十%も違うことはよくある。
- 不確実な情報の推測や、需給予測の難しさが原因であるため、絶対的に正しい方法はない。
自分が信用できるやり方を見つける必要がある。